インターネット創作研究
層雲自由律誌とトピックスご紹介

層雲自由律 最新号 紙面ご紹介(一部)

作品抄 編集部薦(p2掲載)

■ 宙      一     滴
■ 稲の泣くその声を聞いた
■ そこまでいうならそれならそれで
■ あれは風の音ではない 血の匂い
■ 菜の花畑飛ぶ白い魂よ
■ 星見ない人多数 闇も知らない人多数
■ 船が居ない港で自問自答する波
■ ツンボ桟敷  気楽な日暮し
■ きな臭く近づく 軍靴の音
■ 沈黙のことば  辞書をはみ出す
■ コスモスゆれて心みすかされている
■ ご冗談でしょう 銃口が勃起しだした
■ 劉生の林檎が 三つ微笑する
■ 雲、妻のかたちしてゆく
■ かりものの様に半月そっと出ている
■ ザクロみんな口あけて嫌な事件ばかり
■ 母港には時を忘れた船が佇んでいた


近木 圭之介
南沢 延江
黒崎 渓水
中條 恵行
いまきいれ尚夫
下村 直樹
藤田 踏青
木本 千鶴子
藤本 経子
田中 むつこ
小玉 石水
新城 宏
もりたえいいち
比田井 白雲子
由川 うしほ
植原 宮子
伊藤 完吾



ひとこと

自由律シリーズ作品「時」の句

内部で評価の高かった句を挙げてみます。

今際(いまは)の彼が時を問いしんと時移る(妻の死) 荻原井泉水 大正12
あけがたとろりとした時の夢であったか 尾崎 放哉 大正14
明星消ゆ其時巨人歩みきたる 青木此君楼 大正10
狂った時計ばかり背負はされてゐる 河本 緑石 大正 8
夕べの嬉しさ足洗ふ時の二言三言に 福岡 灰斗 大正 3
窓は雪降る退け時の金庫の扉 伊藤 雪男 昭和 6
まつかさそっくり火になる美しい時間をもつ 中原 紫童 昭和22
白雲去来、平和像の指差す雲がその時刻となる 松尾あつゆき 昭和46
とかげの目がぬれて原爆忌祈りの時刻となる 中谷 みさを 昭和52
ひたすら時を置く渚の帽子 伊藤 完吾 昭和58

(詳しくは、層雲自由律誌70号に掲載)


 日常の生活の中では欠かすことのできない時間ですが、その基本となる「時」については歳時記では殆ど扱われていないのが実情です。
 近年は確かに時や時間の句の表現は多くなりましたが、時代を遡るにつれて作品の数は目だって少ないのでした。もともと俳句作品は写実がいのちですから、時や時間といった抽象的な言葉は使いづらかったのかもしれません。自由律の世界でも最初は難しかったようでした。
 井泉水句の主題はもちろん時です。今際(いまは)の時と、妻 桂子さんが苦しい息の中で知ろうとされた時刻、さらに二人がまだ共有し合っている時の経過に身を置く、作者の緊張感が句から伝わってきます。時というものの大切さをしみじみ感じさせられる句でした。読者も思わずこの場の緊張感に引き込まれていきます。
 掲載作品をご覧いただけば分かるように、最近は「時」関連の句が目立って多く作られて来ていることです。そうした中から、時代の評価に絶え得るような時の句が出て来て欲しいものだと思っています。