インターネット創作研究
層雲自由律誌とトピックスご紹介

層雲自由律 最新号 紙面ご紹介(一部)


 

■ 思い返す 濃霧に形づくる郷愁
■ また八月をノックする神の国
■ 人間に生れ何をしてきた
■ 楽園と地獄がらがらとむしばんでる
■ 虫が虫を食べそれを見ている人間
■ 霧の奥から駒送りされてくる壊れた波
■ 神は波の形であらわれた
■ 昭和史の悲惨 かってスマトラ沖に眠る
■ 鶴くる便り語りかける人はいない
■ 生きてるなんてちょっとしたこだわり
■ 生きねばならぬ男が米をとぐ
■ 温故知新 音符となる寒つばき
■ 降りて 木馬の鼻さする
■ 話しても腹膨れてる
■ 神様をペテンに賭けようとした
■ 星数えながらの 鈍行に乗る
■ 冬のトンビの輪 無言

近木 圭之介
いまきいれ尚夫
比田井 白雲子
浅沼 道子
黒崎 渓水
中條 恵行
松原 トヨ子
新城 宏
中谷 みさを
新村 和也
野村 稲波
清水 八重子
正山 昏迷子
前田 和子
伊藤 完吾
安田 阿佐子
大谷 房代




ひとこと

自由律シリーズ <味>の句


[評価の高かった句の一部を掲載します]

◎ ただに水のうまさを云う最期なるか(桂子死す) 荻原 井泉水 大正12
◎ へうへうとして水を味ふ 種田 山頭火 昭和 3
◎ こんなにうまい水があふれている 種田 山頭火 昭和 5
◎ 茗荷の匂いのあおささびしさまずしさ、をあじわう 平松 星童 昭和21
◎ 目刺のうまさを云いその程度の貧乏 牧山 牧句人 昭和32
◎ ほんとうの水のうまさを両手で掬う 小林 仁子 昭和46
◎ 無思想なうまさ湯豆腐あつあつあつ 平松 星童 昭和53
◎ この味噌汁の味あすは人妻となる娘よ 田中 倍雄 昭和53
◎ 北朗の味という短律のぐい呑み 伊藤 完吾 昭和55
◎ 漬物が旨くなって遠山に雪がくる 林 隆一郎 昭和63
◎ 抽象能力ゼロ 肉ジャガがただうまい 近木 圭之介 平成 4
◎ 夕焼けという残りもののスープの味 青木 久生 平成 4
◎ いのちあれば星の美しさ水の美しさ 小林 仁子 平成 4
◎ ウン、オイヒー あつあつぎょうざ 中根 喜代 平成 9
◎ 無農薬の、おいしく醗酵した言葉はいかが 沖 星領 平成10
◎ 薬漬け 春にはおいしく漬かるでしょう 小川 未加 平成11

(詳しくは、層雲自由律誌No77 5月号掲載)

 


「味」の句は大きく分けると二つあって、一つは飲食物が舌に触れたとき起きる感覚。今一つは飲食物以外の知覚。
今回の掲載句では大正・昭和の句の殆どは、前者の飲食物に関する味覚を表現したものでした。
実は、大正・昭和初期の飲食物に関する句は、沢山あるのですが、いずれも食事の内容や飲食物の種類そのものであって、「味」についてはそれほど書かれておりません。それは昔気質の人たちの慎ましさだったのか、それとも食事を作った人を深く思いやってのことなのかもしれません。
では、古い作品から主だった句を拾って見ましょう。
井泉水の句は、関東大震災直後の思いかけない妻桂子さんの臨終における緊迫した場面ですが、一杯の水に込められたお二人の様々な想いの深さが伝わってきます。
山頭火には水を味わう名句が多くあります。つい先頃も熊本放送が制作した『さすらいの旅路』で、水博士の佐々木先生が、この「へうへうとして」と「こんなにうまい」水の句を紹介していましたが、まだまだ九州の山里には美味しい水が残っているようで、山頭火を演じた佐野浅夫氏の水の呑みっぷりも大変によかったです。
山頭火が日本各地の観光に果たした役割は、こんこんとあふれる水のように、まだまだ続きそうです。


(層雲自由律誌 5月号から抜粋)